あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 05

その汚れこそが、愛すべき象徴であり、骨頂である。と、教義された。
他人のモノになるという、自覚。自身が物に成り下がるという、現実。
物は、常に物でしかない。烙印とは、そのために在る言葉なのだ、と。
番号という名前。型番という身体。
そんな私が、何として示すことが出来、なぜ地にあることを許される。
それを与えるのが――作り手の役目ではないのだろうか。



『――こちらへと向かってきた敵騎、沈黙。一掃完了、と、判断致します』
構える刃で仕留める様は、自慢の刃で蟻を仕留める、ハナカマキリと見間違えるほどであった。
その羽は、相手の血から絞りとったかのような深紅。内側から見える素体は、それに染まらぬ純白。
羽化する状態のカマキリが、それを隠すかのように、装甲を纏っているような。この赤は血というよりも、痴態を晒したくないがための照れ隠しとでも言うのか。
「上出来。さ、後は奥の機体だけね」
カマキリが、自身の持つ刃を引き抜く。
鈍色の剣を後方に薙ぐ、半月型に飛び散った後が地面に影のように残り、剣は元の銀色へとなる。
獲物を仕留めたカマキリこそ、仮説伊太利の機体――"マルグリット"である。
四肢を繋ぎ、また、それの神経となるチューブ。それを守るのが装甲なのであるが。このマルグリットは、それの防御を行わず。その上、盾となる金属板でさえ装備していない。
まさに速度を求め、それ故に極力装備を減らした機体だ。そのラインも人により近く。武装も、手に持つ剣しかない。
「やよい、そっちはどう?」
タタン、と、キーを軽快に叩き、通信を切り替える。
『4つ目まで来たよ。やっぱりもっと奥に行ったのかな……?』
4thエリアをやよいが駆けていた。
後方にはマルグリットが3体。野生の昆虫を指揮するのは、まるで堡塁がごとき鉄の板。
そこから響く幼い声。彼女が搭乗者などと、到底思えない巨躯。
――いや、これは体格ではない。あえて身体で例えるなら、それは背中だ。
背中が意味するのは防御である。
それこそが、やよいの乗るこの機体。"ブークリエ"である。
『伊織ちゃん、どうするの?』
そう発言すると同時、エリアラインを超え、5thへとランクが上昇する。
負荷が発生するが、やよいは顔色を変えず、伊織の返答を待っているようだ。
「決まっているでしょ、進撃よ、進撃」
言葉を紡ぐと同時に、足を組み直す。
伊織は訝しげな顔で、それでいて声色は変えずに、思考の深淵で模索する。
散らばって転がる鉄屑。
星雲と表現するには醜い様。しかし、そんな空中庭園の庭師は、伊織達の部隊がした事だ。
オイルと血液、そしてチューブから溢れる液体。三色は混ざり、まるで沼地のようであった。
「変ね……」
ただの探索に投入した部隊ならば、活動時間を補助するために、ここまで供給用の兵を待機させるだろうか。
もし、彼らが一斉に向かっていないのだとすれば……。
「……ああ、そういうこと」
これは補助であるが、全てがそうではないということか。
「やよい、急いで。私もすぐに行くから、先に叩いておいて」
もし読みが正しければ。供給兵が持っていた、中型パックに説明がつく。
「フリル、ここはもういいわ。やよい達と合流するわよ」
伊織の声が響く機体とは別の方向。先程、黒獅子を仕留めたマルグリッドへ呼びかける。
機体越しに、フリルの『了解、マスター』という応答を聴く。伊織はその場で旋回し、先の見えない空洞を目視する。
そして、誰に言うわけでもなく。言い捨てるように
「多分、だけど。この国の駄犬、アレに気付いてるわね」
その発言と、伊織の機体からの駆動音は、ほぼ同時であった。