あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF

・あらすじ
現存する地表の上に砂の覆われた世界。
その現状を受け入れられないまま、目覚めた春香。
平和で、トップアイドルを志していた日々が、一瞬にして非現実へと生まれ変わったのだ。
それを受け入れられないまま、ある一都市に保護され、生きる糧として、小隊へと配属させられる春香。
春香は、その部隊で、バラバラになった仲間や家族を捜そうと決意。
いつしか月日は八ヶ月。アイドル活動時期と合わせると、もうじき一年へとなろうとしていた。
そんな時、ある作戦の兵として、春香は仮説の関東地方へと行くことになった。



【1】
天上が見える。
半透明な装甲越しからでも、その天候は肉眼で捉えるものと、なんら変わりはない。
けれど、肉眼では見ることの出来ないものも、そのファインダーは写す。
それは太陽である。
眩しすぎて背ける光も、今ではハッキリと、彼女の目で見ることが出来る。
日光は豪雨のように突き刺さり、降り注ぐ。その恩恵を、直に受けているのだ。
決して、この塊は太陽光パネルなどではない。
エネルギーを、自然の力で生み出すソレならば、喜んで配備させることであろう。彼女に与えるのは、エネルギーに近しい、熱だけだ。
密閉された空間は、太陽によって蒸し暑い。
そのため彼女の格好は、ほとんどが肌であった。
『――落下を確認。これより、降下作戦を開始する』
女性として、隠す部分だけを隠すのは布。
オリーブ色をした防護服は、徹甲弾で貫くことさえも出来ない。
それは、布だけが衣服ではないからだ。
彼女を含め、後方に控える。およそ14名。
さきの放送を聴いた全員が、機械の鎧を身に纏っていた。
その色は、日光を貫く漆黒。
橙色のコードが縫い目のように這わせ、明らかに目立っている。
しかし、目を気にする必要はない。
『進軍せよ』
その合図で、砂の絨毯を巻き込むかのように、後ろで控えていた者達が歩を進める。
電力を供給する厚底靴が、苅払機のように砂塵を混じえ道を造る。
12名の兵が進んだのを見届けると、隣接する機体にのみ、通信回線を開いた。
『春香、分かっているとは思うけど、今日は登用作戦じゃないわ。本番よ』
手元に携えた猟銃を紐解く。リミッターであるトリガーが、砂の上に落ちる。
今日は兎狩りじゃない、食物連鎖の三角形に反する、上位への戦闘。
『探したいんでしょ――なら、全力で行きなさい』
ザッ、っと、回線の閉じる音が響いた。未だにアナログの無線通信独特の、音だ。
春香は、この音が好きだった。デジタルにはない、雑音。
この音を聴いていると、平和だった時を思い出す。
アイドルを志し、トップに立とうとしていた、あの時を。
「了解、マスター」
前方を見た。皆が先に降下していった、大きな一つの穴。
これだけ、太陽が頂点にいるというのに、その穴の黒さだけは、照らすことができないようだ。
ここに、いや、ここで、全てが詰まっていた。
捜索が、始まる。






天井が、あちらこちらにある。
それが伺えるのは、松明のような人工光の警棒があるからだ。
同時、進行する道から、両側に見える別の道も、丸く穴が空いていた。
風穴の音は聴こえないが、巣のようなこの場所に、鼠の映像が浮かんだ。
陣形は、前方に4人。中央には主が位置し、その横側を2人ずつで守る。残りが、後方から付いてくる。
春香は、前方の4人の一人であった。標準装備の銃を携え、いつでも撃てる構えで走る。
機械兵団による大名行列だ。
『マスター、穹窿穴への接続、レベル3まで到達。これより浸透地域です』
浸透地域というのは、ネットワークトポロジーが、リングオンリーへとなることを指す。
つまり、通信から電力までを、彼ら部隊で補わなければならいのだ。
機械兵は、この橙色のパルスを通じて、遠方にある施設から、電力を供給している。つまり、通信回線から、動力までをワイヤレスで行っているのだ。
それを、この浸透地域からは遮断される。
互いが補い合って生きていくしかないのだ。
『――確認した。後方の供給兵はレベル4到達の時点で待機。バックアップとして、4人は供給兵を護衛。レベル6への作戦は、残りの5人で行う』
迷路のように、一定間隔でブロック体の部屋に四方に穴が空く空間は、人々の方向感覚さえも奪う。道標となるのは、穹窿穴へ伝わる「風」の濃度だけだ。
この風こそが、遠方共有の障害であり。その濃度をレベルで区別する。
濃ければ濃いほど、その部屋はレベルを増し、レベル3までいくと電力供給の障害となり、レベル10を超えると、機体ごと押しつぶされる。
『全員、パルスを赤へとシフト』
春香も、自身の肘側に存在するボタンを押す。パルス内の液体が泡を噴き、変色が始まる。
その際、通信が入る。チャンネルはオープン。相手は、マスターだ。
『春香が先行。私は最後尾から、待機組との通信を取る。出来るな、春香」
ディスプレイのメーターが反応する。濃度が、レベル4へと到達するのだ。
春香はグリップを握りしめ、そのメーターを見つめながら。
「了解、マスター」
覚悟と共に、決意を示す。
『マスター、レベル4に到達しました。これより供給兵を停止させます』
後ろの方で、重々しい音を立てて地へと足を付ける彼らを見ずに認識する。
陣形が、一本線になる。5人が列を乱さず、進行する。
一面は、既に広い空間へと変化していた。穴ぼこは消え去り、今度は隅を感じさせない場所となったのだ。
人工光の松明が消え去る。
発光するのは、パルスの赤い光だけであった。




多分続かない。