あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 02

様々なガラスが、その壁一面に貼られている。
原色が強めに見える。が、不自然な箇所に鮮やかな桃色が収まっていた。
不自然な、ステンドグラスである。
罪や幸福を象徴する、硝子の絵画に、ピンクの絵の具がぶちまけられたようであった。
そんな場所で、優雅に紅茶を嗜む少女。
その、ダージリンの濃さと相成ってか、彼女が踏みつける絨毯も、滲みすぎた紅であった。
まるで、彼女の足が、傷口を踏ん付けているように見えた。
その絨毯に、背後に映るステンドグラスのように、紅茶をぶちまけた。
「相変わらず……紅茶がまっずいわね、この国は」
液体は、瞬時に染み渡り。絨毯が葡萄酒の濃い赤を滲ませる。
まるで血のようだ、と、少女は見下した。
見覚えのある、けれど、自分が浴びたことのない、液体を指す名前だ。
「伊織ちゃん……その、一応『皇帝の棺』なんだから、汚すのはやめようよ」
横に控えていた、白い甲冑を纏う少女が言う。
甲冑、というには文字に負けているような格好である。
胸当てと篭手がある程度で、足に付属する装備はないに近い。
体格的に見て、同年代と思われがちだが、一応、紅茶の君の方が年上だ。
「わかったわよ……わかったから。貴女が染み抜きをしないで。一応、私の次に偉いんだから」
意見する少女は、紅茶が零れた場所を、一生懸命拭いていた。拭くというより、叩いているに近い。
「だって、こんなにキレイな絨毯なのに……ひどいよ、伊織ちゃん」
目に涙を溜め、今にも泣き出しそうな顔で、少女は拭き続ける。
「ああっ、もう! 悪かったわよ! ちゃんとしたスタッフに任せるから、立ち上がりなさい!」
――同時、木魚のような音が響く。
それが、死者への手向けではなく、この部屋の戸であると気づく。
ギィっと、年月を示すような音で、大きな扉が開く。
「……何、取り込み中なんだけど」
明らかに機嫌の悪い態度で、侵入者に対し、伊織が睨み付けて告げる。
その足下では、未だに甲冑の少女が、自らのハンカチで、絨毯を叩いていた。
「――伊織様、緊急の用件なため、ご無礼をお許し下さい」
入ってきたのは、御河童頭の女性である。その髪型に似合わず、金色の色であった。
肌の露出が多い、水着のような服を身に纏い。白い上着でそれを隠す。
その色の上着は、この国ではドイツ兵であることを指す。
彼女は続けて、言う。
「極東にて、反応があったそうです。場所は、仮説関東」
報告である、それは、伊織の苛々した顔を晴らすには、とっておきの魔法の言葉。
「伊織ちゃん!」
先に反応を示したのは、地面に這う少女であった。
「ええ、ええ。やよい、待っただけのことはあったわね……!」
自らが開く、手を握りしめる。
何かをつかむ、そういう感覚がある。
この意味は3つのことを指した。
伊織にとっての喜びと、やよいが喜ぶ理由と。そして、それを告げた兵士が言う、理由。
全ては、決して交わらない。
「出撃よ、やよい。場所は日本」
「了解、伊織ちゃん」
マスターでしょ、と、伊織がくしゃっと、やよいの頭を掴む。
「出るわ、アンタ――その絨毯、買い取るから。新しいのと代えておきなさい」
了解、マスター。と、御河童の女性が頷く。
それと、と、伊織は前置きし。
「今度からは、私の家から紅茶を取り寄せておくことね。これじゃあ、歓迎の意味がないから」
そう言い捨て、重々しい扉が閉まる。
長い廊下を抜け、風が吹き抜ける場所へ到達する。
深緑の風景などない。大半が砂に覆われた、殺風景が映る。
砂漠の真ん中に建つ、このケルン大聖堂は、伊織が発掘し、復元した物である。
そのため、あちらこちらに穴が空き、唯一復元に力を注いだのが、ステンドグラスであった。
その聖堂に祈るかのように、二つの機械が跪く。
「伊織ちゃん、みんなで帰れるといいねっ!」
やよいは未だ、この世界が夢か何かだと思っている。
けれど、その夢は醒めない。なぜなら、現実だからだ。
やよいはそれを認識したがらないだけ。
現実ならば、受け入れるしかない。
だからこそ、伊織は――
「そうね、やよい」
嘘をつき続けることを、選んだのである。





やっぱり続かない気がする。