あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 03

轟く重低音。
名の如くそれは重く、身体を押し潰すような感覚に陥る。
けれど、それは気のせいなどではない。実際に、重力という目に見えないものが、のしかかっているのだ。耐える、というほどの圧力ではないにせよ、鬱陶しい、とさえ思う。
その場所で、彼女は、中央に半球体の物が鎮座する机に、片肘を置く姿勢で座っていた。
その半球体は、透明ながらも藍色を含んでおり、所々に、発光体の小さな点が、動かずあちこちに散らばっている。
この星を上から覗いたような、そのスフィアを凝視していた。
けれど、そんな優雅な代物でないことは、周りを見渡せば分かることである。
なぜなら、彼女の横に聳える人々は、銃器を片手に武装した兵士であるからだ。
「仮説関東、ホントに観測されてるようね。ほら、やよい」
気怠そうな目で、球体の一部を指差す。小さな星の一つが、赤く光っていた。
「伊織ちゃん、じゃあここにも?」
「――ええ、あるんでしょうね。この星にはない異物が」
くぃ、と、球体に添えてない方の手で、一人の兵士を手招く。
瞬時に、兵士が近づき。その長身が、伊織の顔と同じ位置へ行くため、腰を屈める。
「フリルを呼んで来て。それと、紅茶」
了解、マスター。と、兵士が動く。彼がその部屋を過ぎ、残りの兵士は6人。
全てが微動だにせず、沈黙する。
「……穹窿穴には既に、あの国の駄犬共が調べてる可能性があるわ。あの国はアレを保有していないはずだから、回収する可能性は、ゼロ。多分、破壊するでしょうね」
指で、球体をつたう。丁寧に手入れされたものなのか、新品同様の、爽快な音が響く。
その隣で立つやよいは、
「伊織ちゃん。もし、あの国の人たちとバッタリあったりしたら……どうするの?」
「……決まってるでしょ、殲滅よ。これはチャンスなのよ、やよい」
この国は、突然の砂漠化から、状況を把握していない。
伊織の国の主は、それを利用して、他の国に先制攻撃をかけた。今ではヨーロッパのほとんどを制圧し、勢力を拡大しているところだ。
戦闘に参加した伊織は、他の国なんてどうでもよく、仮説関東が欲しかった。
伊織達が日本人である以上、極東の大陸にこそ、自分たちの知る人達がいる可能性が高い。
やよいの願いを叶えるわけではないが、これが夢だったとしても、仲間や、家族を、探し出して保護したい。と、思うのは当たり前だ。
そのためならば……!
「やよい。私ね、この作戦が終わったら――」
刹那、扉を叩く音が響く。木造ではない、金属音である。
「マスター、お呼びでしょうか」
白髪の御河童に、煉瓦のような赤みと硬さを持つ物を体中に貼り付けた少女が、伊織を前に一礼する。彼女が装備するのは、伊織の属する仮説伊太利の、正式な武装である。
「……フリル、まぁいいわ。観測場所への到着予定時刻は?」
フリルと呼ばれた少女は、両手で銀製の盆を持っていた。その上にあるのは、伊織が指示したティーセット。そのティーカップは、二つ。
「あと2時間40分です。このヘリでの誤差は、およそ+15分」
ティーセットをフリルが並べ始め、茶缶から葉をつまむ。
やよいが「手伝いますっ!」と言うが、それを伊織が制す。呆れた顔で、首を振りながら。
「3時間、てとこかしら。ティータイムにはわるくない時間、ね」
お湯を注ぐ。そのまま蓋を抑え、フリルは停止。茶葉の抽出を待っているのだ。
それを一瞥すると、伊織は、やよいに隣に座ることを指示。
やよいは、隅側に積まれた椅子を取りに向かい、伊織の隣にそれを置く。
そのわずかな時間で、カップに紅茶が注がれる。交互に注ぎ合い、薄さと濃さを均等に行う。
フリルの注ぐ横顔を見て、「フリルさん……すてきです」と、やよいが呟く。
全てを終え、一杯の紅茶が出来上がる。伊織はそれを持ち上げ、匂いを嗅ぐ。香水なんて代物よりも甘美。伊織が好む、セカンドフラッシュ
「やよい」
向き、そして強要する。
「うん、かんぱーい!」
やよいが、カップを持ち、搗ち合わせる。食器の擦れる音がする。
だから、ティーカップでそれはやらないで……と、思いながらも「乾杯」と、一言。
一口それを含み、味をかみ締めると。
「関東は、一体どんな味なのかしらね」
見えぬ何かに向かって、伊織はティーカップを差し出した。





つづか・・・ない。