あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 04

地下迷宮である以上、その壁は土である。
腐葉土が混じった箇所もあれ、基本的にはパウンドケーキのようだ。
元の色が暗い以上、この空間も、薄暗いように造られている。
ならば火を灯し、視野を広げるしかない。ずっと昔のご先祖様が編み出した、文明の知恵だ。
――が、そんなことは衆知の事実であり、我々だって馬鹿ではない。
油でも良い、そこから発生させる光ならば、喜んで使用するだろう。だがこの迷宮は、偉大なるヴェルヌに筆を与えないのだ。
つまり、浸透地域では、科学技術でしか踏み込むことはできない。
特殊な金属板で作成した松明は、レベル5まで耐えれるよう作成された。
それでも、彼らがレベル4のエリアで、その灯りを消すのは、パルスに頼ったシステムだからだ。
パルスは動脈であり、その活動が停止したら、機体が停止するのも当然である。
黒獅子へ繋いだパルスは無限ではない、ある一定時間で蒸発する。
同時に必要なのが、それを促す電力である。金属の松明へ分けるほど、この地域での活動は生やさしいところではない。実験場と同じ地上だとしても、ここは宇宙空間のような孤独が味わえる。
『マスター、先導した機体を発見。合図を送ります』
レベル4を超え、レベル5の地域へと到達した。
10のレベルで分けられたこの浸透地域。このレベルまでくると、生身の人間が押し潰されて死ぬほどとなる。
機体の一つが、黒い円球を放る。女投げで、巨躯に似合わぬフォームだ。
見るからに平らな地面に、急斜に置いたかのように、その球が進む。それはいつしか見えなくなり、そして、完全に姿を消す。
その姿を見届けると、ふたたび5機が進行する。
既に4時間もの長旅であった。内陸全てに、この穹窿穴があるのではないかとさえ疑う。
穹窿穴は、学者の説によると、未知であり異次元であるという。
その深さがあまりにもおかしいのだ。
かといって、レベル7以上には進入出来ず、測定することも、その先に何があるのかも、調べようがないのであるが。
『――確認、これよりレベル6へ入る』
ズン、と。身体が少し重くなった気がした。負荷が機体の中でも伝わる。
段階毎に伝わる感覚。レベル6にまで来ると、子供を背負っているかのようであった。
『マスター、清水准尉からの反応到着。数分で、合流と処理されました』
先導する春香にも、その通信が入る。
そして、機体越しから、自分たちと同じ、捜索する兵士に支給される機体「黒獅子」が見えた。
――そして、その後方に、繭のような幾重にも絡む白い糸があった。
「マスター、捉えました。おそらく准尉の機体です」
即座に発言する。そして、その異形を改めて見つめる。
『了解。では、准尉と合流し、繭のか――』
マスターである司令塔の発言に被さるように、最後尾にいる機体からの通信が入る。
前述の発言者は舌打ちし、横入りした兵が言う。
『マ、マスター、非常時です! レベル3で待機中の機体からの供給が遮断。パルスの変色が!』
その開放された通信で、皆が己の機体の腕を見る。先程まで血管のような赤であったパルスが、橙色へと変化していた。
つまり、非常時だ。
『残りの活動時間は、およそ6時間!』
『おい! どうなってる中尉!』
他の機体からの罵倒と恐れが交差する。
この穹窿穴から脱出するのにおよそ4時間。まだ慌てる時間ではない。先行する准尉に動力を与え、その上で脱出する。それも十分にできる時間だ。
が、その答えが指す意味は――作戦の失敗、である。
「マスター……!」
春香が叫んだ。交錯する言葉の中で、マスターの声は響かない。沈黙していた。
春香が停止する前に、他の皆が停止する。不安あるドライブで、燃料を消費するのは無意味だ。
ザッ、と、ノイズが一瞬通り過ぎ、そして。信頼を置く者の決断が轟く。
『……全員、前進することを指示する。これは命令である』
一拍の代わりに、ため息を一つ。
『中尉は橙蝋を手繰り、供給兵の様子を確認。その後、穹窿穴を抜けて、本部への報告――春香!』
「はいっ!」
急に自身の名を呼ばれ、春香が機体の中で振り向く。
『我々は准尉への回線開放を終え、レベル2までの帰還を行う。いいな!』
狼狽えていても仕方がない。
作戦は続行中であり、それを果たすことが、この部隊の責務。
そしてなにより、マスターの命令は絶対なのが掟。
死ねと言われれば死ぬ。任務のためであるなら、マスターが達成できると言うのなら、行う。
それが、日本兵だ。
「了解、マスター!」





つづく・・・かな