ついったーから来た1時間アイマスSS:お題「夕焼け」

群青が宙で瞬き、その青が淀みなく私を見つめる。
私の目を見て、それはただ在り続けた。
周囲には渦のように紺碧がある、同時、光がそれを遮り、邂逅を導くが如く、一筋の線が出来ていた。
――それを、人は飛行機雲と呼ぶ。
渦巻く量からして、エンジンによって引き起こされたものなのだろう。それは瞬時に視界から消え、痕跡だけを残して去る。
先刻の、導きという言葉の通り、一色のキャンパスも、消しゴムでも当てられたかのように。一筋の線が、白い雲を引き連れていた。
その風景を嗜む少女が一人。いや、嗜むのは淀みある一杯の珈琲であり、これはどちらかといえば肴に近い印象がある。
「良い天気ねぇ……」
カラカラと音を立てて開放し、肉眼で見えるように、だらけた姿でそれを見上げる。
下を見れば、人が歩き、車が走る。そんな在り来たりの風景を見るならば、在り続ける風景の方が優雅とでも言うのか。どちらにしろ、豆粒のような人達を見て、悦ぶ趣味の方がよろしくはない。
少女は自らが着用するシャツの襟元を緩め、ぱたぱたと右手で煽ぐ。
風鈴の音がそれに呼応するように揺れ、音は涼みを与えようと器官に訴えかける。
対し、「気付いて欲しいのは、こっちの方よ」と、少女が天井で揺れる半紙を見上げた。頷きもせず、微笑だと言いたげに、風鈴は音を響かせていた。
少女――秋月律子は、とにかく暇であった。
でなければ、風鈴などに話しかけたりはしない。私は精神病の患者ではない、むしろ彼等に希望と活力を与えるアイドルなのだから。
けれど、今はそんな高みの存在ではない、一少女でしかない。
それもこれも、
「……プロデューサー、どこいってんのよ、まったく」
肝心な人物がいないからである。
今朝方から出かけた、と、社長から朝礼で言われ、彼が帰宅するまで根無し草になってしまったのだ。
とりあえず、副業とも言える事務仕事を手伝おうと、専用の服装に着替えたものの――
「暇ねぇ」
代弁するように、遠くから声が聴こえた。
幻聴などではない、先輩であり、ある意味今は同僚なのかもしれない。
彼女の名は、音無小鳥と言う。
「あ、そうだ! ケーキでも食べに行きましょうか? この前、春香ちゃんが――」
「いや、仕事して下さい。小鳥さん」
窓際にもたれかかったまま、律子は声で提案を制止した。
年上が拗ねた顔で、椅子を回転させ、デスクの方へと顔を向ける。
そのまま、
「しかし……どこに行っちゃったんでしょう。プロデューサーさん」
んー、と聞こえる声で、わかりやすいように考えている。
律子は視線を天上に戻し、近づいてきていた雲を見つめた。
チリン、と、風鈴が鳴る。
「まーた、どこかでサボってるんですよ。きっと」
サボる、なんてとこ、一度も見たことはないけれど。
それにしても、何も言わずにいなくならなくたって……!
フン、と律子が俯いた。
すると、
「フフッ」
「……なんですか」
瞬時に、その笑みに律子がつっこみ返す。当人の小鳥さんは、もう一度律子の方へ椅子を向け。
「愛されてるんだなー、プロデューサーさん。って、思っただけですよ?」
羨ましい……いや、むしろ愛して。などと小さく呟き始める。律子はそんな小鳥さんに呆れた顔を見せ、溜息を一つ。けれど、言い返すのもどうかと躊躇う。ここで否定をすれば、照れ、ということを言われ、肯定すればややこしくなる。
それに、どちらを言うにしても、どこか恥ずかしかったのだ。
「……小鳥さん」
こういう時、経験という差を痛感する。積み重ねた時間が違うのだ、と、諦めるわけではないが。それにしても、小鳥さんに勝てる気がしない、と、思われることは多かった。
「はい」
にこっ、と美しいスマイルだ。
「……ケーキ、食べに行きましょうか」
けれど、この発言の後だと、とびきっりの笑顔という言葉の方が、よく似合うと感じた。



真夏とは言わないが、4時を過ぎたあたりに日が傾くのを見ると、冬が近いとさえ思う。なんとも曖昧な空だ。
群青はいつしか赤橙色へと変化を遂げる。
その色映えする様を、いつも見事だと律子は思っていた。
地味だと感じた自分自身も、これくらい一瞬で塗り替えられたらな、と。
その例えでアイドルを目指したとは言い難いが、そうでありたいなと、空を見上げることはあった。そんな考えに、阿呆みたいだ。と、苦笑する。
彼女の隣には、満足そうな顔をする小鳥さんが居た。
30分も悩んだ後に、結局絞りきれなかった候補4つを全て平らげたのだ。それはそれは見事な喜びの顔なのであろう。太っても私は知らない。
「そんなに、美味しかったんですか?」
律子が隣の人物に問うた。
「んー、そうですねぇ……」
腕を組み、小鳥さんが立ち止まる。答えを聞く前に置いていきそうだ、と、律子もその場で立ち止まる。
一拍置いて、小鳥さんが解答を発する。
「味は、どっちでも良かったんですよ」
は? と漏すように律子がはき出した。
組んでいた腕を解き放ち、小鳥さんが軽くステップして見せる。それを終えると、片手で頭を掻きながら、
「少しでも気は紛れましたか?」
えへへ、と、20代の大人は無邪気に笑んだ。
誘ったのは私なのに、やってやったぜ!的な顔でこちらを見つめてくる。
一番はしゃいでたくせに……よく言うわよ、この人は。
「はいはい、ありがとうございます。おかげであーんな人のこと、一瞬で頭から消えました」
それこそ照れ隠しだ。茜色の夕焼けに、少しだけ感謝する。
その言葉に満足したのか、小鳥さんはまた隣り合うように歩幅を合わせてくる。
私は、それを乱さぬように、彼女と帰路を目指す。
幾分かして、大通りを抜ける。すると、ある程度人が減り、後は事務所を目指すだけとなった。
見慣れた小さい事務所を見上げて歩いていると、
「――あ、プロデューサー!」
待ち惚けを食らうこととなった、当事者の顔を発見したのだ。
律子はその場から早歩きで向かい、くいっと眼鏡を上げると、
「どこいってたんですか!?」
怒声で、彼を出迎えた。
出会い頭に責め立てる律子に対し、残された者が一人。
小鳥は立ち止まりはしない、けれど、追いつくことは野暮だと感じながら、
「いいなぁ……律子さんには、夕日が落ちる前に、迎えに来てくれる人がいて」
皮肉混じりに、そう呟いた。







夕焼けで思いついたのが、最後の小鳥さんの台詞だけでした。
なのでそこから肉付けしたわけですね……。
1時間しかないので読み返す時間もなく、後で読み返したいです。

どこから来たかよくわからないお題に便乗してみました。
お風呂の中の構想10分程度なのでよくわからない感じになってる気がします。
とりあえず久々に1時間SSやってしんどかったです。
以上!