あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 08

夕映えに似た、命僅かな間接照明。
煌めきというよりも、揺らめいて。それは、部屋全体を照らすこともなく、ただ、その一生を全うしていた。
その真下にある地上は、管楽器が唸るような酒場ではない。
けれど、カウンター席が見える。
設けられた7席を埋める、二人の存在。
どちらも目移りするような美人なのだが、服装がそれを際立たせない。
むしろ異彩を放っていると言っていい。露出を上げ、カクテルでも嗜んでいれば、声を掛ける男性も多勢なことだろう。
けれど、見映えなき絶世の美女達は、ウィスキーを啜りながら、スプーンで洋菓子を嗜んでいて、
「だからさぁ、アンタはそれでいいのか、って言ってんの、はるかー」
一方は大変面倒な、絡み癖を見せていた。
「あははー……本当、お酒飲むと性格変わりますね、宮田大尉」
バーテンは困った顔で、隣に座る女性に目を向ける。
同じように、ウィスキーグラスを片手に持つ女性、緩めたマフラーからは、バーベナのような色をした唇が見える。
返事はせず、こくっ、と、頷きで返答する。
――その音と同時、頷きではなく、しゃっくりのような音で、反応する酔っぱらいは、
「そういやぁ、これが初任務だねー。しかしマスターも、なんでそんな人間を導入しようと……」
発言者はぐらぐらと揺れる頭を支えきれず、けれど、屈することなく、グラスをくいっと飲み切る。
刹那、からん、と、グラスに残る氷が響く。
宮田、と呼ばれた女性は、俯いたまま、淡々と告げた。
「はるかなんて、まだ半年ほどしか訓練を受けてないし。黒獅子だって、この前がはじめての搭乗だったんでしょぉー」
「あ、はい……まぁ、その。私は調理師みたいなとこありますし……」
それは、先刻のことだ。
皆に振る舞うよう、お菓子作りをしていた所に、急にマスターから名前を呼ばれた。
春香は、それに従い、小走りで彼等の席へと向かい、マスターの隣に立った。
そこで、言われたことが――「本作戦に置いて、春香を正式に小隊へと迎え、本作戦に限り、補佐に任命する」という内容であった。
瞬時に反対をしたのが、彼女、宮田大尉である。
黒獅子は耐久力、持久力を誇る防衛用兵器である。機で動けば、例え穹窿穴が崩れ落ちても、搭乗場の安全は保証されている。
けれど、その黒獅子に乗った人間が帰ってきていないと、清水は語った。何が起こるか分からない場所へ、訓練を受けた志願兵だとしても、本任務への導入はどうか、と。
そうなのだ。
繭のある穹窿穴に、何が潜んでいるかがハッキリとしていない以上、防衛を行う兵器を導入することもままならない。
全員が同じ知識で、自らの安全を第一に考えなければならない任務だ。足手まといならせめて、供給兵の方がしっくり来ることだろう。
宮田が引っかかっているのは、今回の任務に春香を導入することではない。補佐として出迎える、と言うことである。
副隊長である宮田大尉を差し置いて、という意味ではない。マスターの補佐に回るということは、彼女を守る立場にある。つまり、常に前線でいなくてはならないということだ。
宮田は、初任務で経験の浅い春香が、真っ先に死ぬ可能性、それを、回避したいと告げたのである。
――けれど、マスターは我を貫いた。絶対である、と、マスターとしての権限を押し出したのだ。
『本作戦において、春香の導入は、作戦の成功を意味する。そのため、これを否定することを私は拒否する』
それが、説明の終わりを意味していた。宮田はだからこそ、自身を静止させるしかなかった。
「わっかんないなぁ……何を考えているか」
漏すように、宮田が区切る。
春香も彼女と同じ意見だ。穹窿穴に向かうことは、兵士を志願した以上、構わないと思っている。しかし、なぜ、前線でなのか、と。
死ぬ事への恐れではない、単なる興味であった。
「……多分、だけど」
春香と宮田が互いを見つめ合う、発言したのがお互い違うことを認識すると、そのまま方向を変える。
「……マスターには、絶対の自信があると思う。そうでもなきゃ、補佐になんてしない、と、思う」
身震いを一つし、彼女はまたマフラーを巻く。
そんな彼女の言葉に、春香はくすりと微笑んだ。
「そうですよね……それに――」
春香が話すことで、また自然と、残りの二人がそちらを向く。と、
「信じてるんです……私を拾ってくれた、マスターを」
無垢な笑顔で、そう言うのであった。









ここらへんでストックを放出予定。
近々続き行けます