あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 09

「……もしもし、私だ」
声と同時、蓋を開かれたように、視界が白くなった。
その白に簡単に慣れることが出来ず、瞬きを数回することで、自身を調整する。
支給された連絡用の子機を左肩で支えながら、辺りをそのまま見渡す。
殺風景という言葉が、あまりにも似合う場所であった。
それもそうだ――なんせ、自身の立ち尽くす扉以外の壁、それら全てを反射させても、屈折の原因となる物が、一切合切ないからだ。
これを、人は空き家と呼ぶのだろう。けれど、住人は今、その場所に帰ってきている。
「……分かっている、春香は前線に配置した。滞りない、全て順調だ」
左手で子機を持ちながら、右の袖を。持ち替えて、今度は左袖を。脱ぎきったコートを利き手で持ち、器用にそれを肘の上で畳む。
畳部屋の隅にそれを追いやる。自身は部屋の真ん中で、依然として立ち、相手の声を聴いていた。
「……お前、何をさせようとして、何を知っている」
その剣幕が、灯りによってハッキリと映る。
彼女が苛立つのは、電話越しが小出しにする情報についてなのか、それとも、また別の――
「わかっている!」
怒濤と共に、思考さえも遮る。
唸りは電子音を通じて騒音にしかならない。
沈着だ、そう――私は、何をしている。
「……全ては私のためだ。名誉も勲章もいらない、欲しいのは、価値だ」
価値、そうだ。
私は、そのためにここまで登り詰めた。
だからこそ、電話越しの相手がどうかなんて、どうでもいい。
最終的に辿り着く場所、それが、私のためであるのならば、全てを果たそう。
けれど……。
「……なんで、春香なんだ」
返答はない。
既に通話が終了しているのだろう。彼女は耳元から子機を離しがちに、最後にそう呟いたのだ。
理解していた。
私は、動かされている、ただの駒でしかないのだと。