あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 10

【3】


「悪くない……好きよ、こう、身体が軽くなっていく感覚」
恋人のように、並列に連れ添うのに、彼女の声は、どこか遠く感じた。
黒の上に、うっすらと窪みが見え。触れることなくそれを通過する。その内部はやはり黒く、抜け出たと思った頃には、また窪みが見えた。
トンネルを抜けると、そこはトンネルであった。導かれる路はいつも夜の世界で、常人なら気が狂いそうになり、彷徨いを彷彿とし、崩れ落ちることであろう。
けれど、彼女に迷いはなかった。
まず、第一に違うのは
『――レベルダウン、4thエリア到達を確認』
それは風の濃度である。
穹窿穴内部の浸透地域、それを区別するためのエリア分けであり。
その標は、彼女が視るメーターが記していた。
「この速度なら、余裕で地上まで戻れるわね」
言葉と同時に、目線を動かす。ファインダー内部の自身の目が、目下の小さな光を捉える。
橙色に輝くそれは、まるでオレンジグミのようで。
それは、兵器の一つとして、「橙蝋」と呼ばれたマーカーであった。
第二の、ただのトンネルにはない差違だ。
『……宮田副隊長』
確認を続ける機体に対し、隣の機体がその物体を名称で呼ぶ。
けれど、黒獅子にそんな長い名称はない。それを指すのは、内部に潜む目のある方で、
「なんだ」
現在の主だ。だからこそ、彼女は返答をする。
『……原因は、一体何なのでしょうか』
彼等は今、二人で行動をしている。それはマスターの命令であり、率先して挙手した役目でも何でもない。
それはたまたま――状況に気付いたのが、語る当方であったからだ。
宮田はその補佐として指示され、こうして、相乗りのドライブを続けているのである。
「柄にもない、ビビってるのか小日向中尉。異性を手玉に取る歴戦の兵士も、母胎の暗がりでは坊やってわけか」
ははは、と高らかな笑いで言葉を続ける。
冗談を言っていい状況なのか、それとも、そんな軽はずみでは済まされない状況なのか。
――宮田にも、それがわからなかった。
マスターには「何かがいる」ということを知らされただけだ。示す「何か」と呼ばれるモノが、異形の怪物だったとして、供給兵達はそれに襲われたという可能性もある。
供給兵に就いた護衛の黒獅子の数は4機。それが通信さえ飛ばさず全滅ということは――
「……潜むは鬼か、はたまた栗鼠か」
足場の芋虫が加速し、次々と橙蝋を踏み潰す。虱潰しのような作業を繰り返す。
一歩、また一歩。
その歩みは希望の光へと向かっているようで、同時に絶望への合図のようにも取れた。橙蝋を辿りながらレベル3へ踏み込むということは、その現場へと導くようなものなのだから。
待ち受ける試練の扉へと向けて、火車は果てを目指す。
既に、宮田と小日向は沈黙を続けていた。事務的な確認作業の言葉だけは絞り出せるものの、不安が浸透地域を覆っているようで、外に出ずとも押し潰されそうな感覚。
けれどその沈黙も――ゴール目前となった。
振り子がじわじわと「3」という数字に近づき、針がその場所へと触れようとしていた。
――その刹那。
『副隊長!』
「わかっている!」
音だ。
音が、物質となって迫ってきた。
その音はまるで雷雲を予兆させるかのように。
駆動は籠るように響き、それを増幅させ近づく。
けれど、彼等が恐れるのは、そうではなかった。
「……なぜ、なぜ後ろから聞こえてくる!」
それは先程まで、彼等が走ってきた道のりであった。
レベル4。
彼等の知りたい現場からではない。むしろ、生物に気付いて、それを追ってきたかのような。
そして、彼等がソレに気付くより前に
『みや――』
小日向の乗る黒獅子の首が、宮田へと迫るように飛び跳ねて来たのである。