あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 11

停止と消滅は、同時に死へと繋がる。
停止とは生命活動のことを指す、それが寿命であろうと、災害であろうと、予期せぬ事態であろうと。容易く死ぬことはできる。
消滅なんてものはもっと簡単だ、全てが焼き尽くされてなくなったとする、そうすれば、人は「生きている」とは言わない。在る者と認識されないこと、つまり死へとなる。
例えば、記憶の中で人は生き続ける、という台詞がある。
その言葉は間違ってはいない。
他人の定義を、「自身が他者を認識することで、初めて人として成り立つ」とするのならば、目が映す物体を「人」として認識すれば、充分に人だといえる。
生きていると思えば、事象として死んだ人間がいたとしても、その人の頭の中では「生きている」と定義されるわけだ。
なら――現状として、彼女の脳は、生か死か、どちらを捉えているのだろうか。
その瞳に映る者が、たとえ人間じゃないとしても。
その首が、金属で出来た機械だとしても。
首が目の前で撥ねられたのならば、アナタならどう感じるのだろう。
解答は容易い。
「小日向……くそっ!」
死だ。その結論が、たとえ彼女の中だけだとしても。
――その叫びが、黒獅子の中を貫通し、微弱ではあるが、この暗い迷宮の中で響いた。
デュラハンとなった黒獅子が膝から崩れ落ち、ズドン、と、音を立てて地面を抉る。
真横にいた一体は、その叫びだけを最期に、すぐさま後ろを振り向く。
「――――」
視界が、暗闇を捉える。
その刹那。
「……っ」
ダーツの矢のようなモノが、ブルである宮田をめがけ、暗闇から放たれる。
瞬時に宮田は反応を示す。が、投げられた三本の矢を一つ避けきれず、黒獅子の肩を掠めた。
その事に、舌打ちする間もなく――
「――っだってんだコイツは!」
先程と同じような動作で、赤色を纏う矢が飛び出す。
脇を締めた両手で持つ矢は、どちらかと言えば槍のように錯覚する。
赤い機体の突撃を、宮田は容易く躱す事に……成功。視界を、相手に向けようと振り向いた先には――
同じスタイルで、方向を翻した赤の機体があった。
「コイツ……!」
赤い装甲のマタドールが、獅子を狙いにきた光景であった。
しかし、自然の力が勝るからか、弄ぶのは獣の方で。
執念だけで何度も突撃してくるマタドールに、獣は、体力を奪われると感じた。
「しつこい!」
長丁場を避けるためか、宮田は、自身の機体の肘の部分に力を入れる。
簡単に、部品の一部が外れ、中には長細い、黒獅子からすれば定規のようなものが露わになる。
それを躊躇せず引き抜き、突撃を繰り返すマタドールを避けながら、振り上げる。
「唸れ、地網!」
それは、とても小さな刀であった。
包丁にも届かぬその剣は、マタドールの矢で例えるなら、投げナイフに用いられるような代物で。
けれど、その振動は、マタドールの装甲を容易く削った。
4回目の回避を終え、初めてマタドールがその脚を止めた。
まじまじと見つめると、それは闘牛士よりもやせ細った、カマキリのようであった。
カマキリは、先程まで両手で抱えたレイピアを、片手に持ち直し、こちらを見つめた。
全身を捉え、削った先が手の甲の部分であったのだと、宮田は悟る。
息を整え、宮田は一つのスイッチを押した。
「お前……どこから来た?」
その声は、先程の叫びとは違い、キチンと穹窿穴で轟き、ささやかに木霊する。
押したスイッチは、オープンチャンネルであった。カマキリが防音製でもなければ、聞こえているはずなのだが……。
期待通り、相手は何も答えない。
その反応に対し、宮田が言えることは、一つだけであった。
吐いた息は深く、同時に、捨てる台詞も吐くように。
「なら――お前さんを倒して、嫌でも吐かせてやるよ」
地網の振動を再開させ、獅子がカマキリへと襲いかかった。