あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 12

二つの影が、鈍色の水滴を跳ねつつ交差する。
返り血のように、鮮やかな色にそれは飛び散り、芸術を侮辱するような行為であった。
けれど、その円舞こそが芸術に繋がっていた。
一方は細い剣一つで誘い、一方は小さき小刀でそれを受け弾く。
踏み込みが浅れば一瞬で舞台は終焉し、深ければ敬遠され持続し、いつしか一つの見せ物として進化する。
赤い機体は、黒の命だけに一点を置き。黒の機体は、赤の存命に意識しながら破壊を望んでいた。
収束のないこの戦いに置いて、二人の意見はどこまでも交わらず。
――つまり、引けを取らぬ戦いであるということだ。
「ハッ、良くやるよお前!」
宮田の声が空洞の世界で呼応する。
対峙してから、彼女はずっと、音声が相手に聴こえるように設定していた。
それは威勢による威嚇であった。
言葉は必ず力を持つ。
それが、彼女の信じる言葉であり、
「―――速いじゃないか!」
自身を支える要素の一つになっていた。
斬撃が空を切る。それは相手のレイピアで弾かれたから起こる動作でもあるが、この黒獅子という機体では、いくら軽い小刀といえど、大剣を振うような動作を必要とする。
それは、その腕一つを動かすために、この機体は頑丈すぎるからだ。
一方で相手は、自らを守る鎧として深紅を覆わず、自らの手足となるように改良されているようだ。
現状は、互角、という言葉で通っているが。
実際には、「私の攻撃は当たらず、相手の攻撃は塞ぎきれる」であり、相手がこの装甲を貫けば、私は終わりだ、ということが言える。
時間がないのはわかっていた。
けれど、策がないのだ。
(どうする……!)
迫っているのは、赤い機体だけではないということか。
冷や汗が自身の搭乗する席で飛び散る。同時、自らが捉える砂の欠片は、内部だけではなく、外部でも起こっているのだと悟る。そちらの水滴は、小日向の機体から漏れ出るものなのであろう、既に頭部のカメラは使い物にならず、自らの目を信じるしかなかった。
思考も束の間――赤の機体は何度でも迫る。
穿つように剣先が猛進する。
地網の震えとぶつかり、金属同士のぶつかる音が嫌に響き、光のアーチが虹のように気まぐれに姿を見せる。
諦めたのか、相手はまた後方に下がる。その、繰り返しであった。
(いっそ、勝負に出るか……)
黒獅子に足りないモノはなんだ。
そう、速さだ。
速さだけが奴より劣っている。
――黒獅子の振動音が、幾分とせずに停止した。
握る手をそのまま腰の辺りに添え、黒獅子本来の駆動音だけを続け、その場で静止する。
好機。
そう思うように、赤い機体がこちらへと迫る。
その速度はいままでと変わらないように見え、けれど、獰猛なチーターの足にさえ見えた。
瞬刻の出来事が、一枚のフィルムのようになり、パラパラと映像をめくっているような、そんな感覚で。
彼女はただ、勝利だけを思い描いていた。
敵はやはり、同じパターンでレイピアの先だけをこちらへと向けて突進する。
赤の機体の一番装甲が固いのは胸の辺り。つまり、そこが敵の操縦席だと考えられる。
例えば、私の機体をずらし、右腕だけを犠牲にして地網の振動を再開させて討つ、とする。が、この黒獅子の機体では、まず間違いなく敵の操縦席まで手が届かない。
ならば、どうすれば勝てるというのだ。
「そろそさよならだよ!虫野郎!」
レイピアが仕留めたと思った場所には、既に何もなかった。
いや、ないというのは正しい言葉ではない、搭乗席と呼ばれる場所自体がその場から消え去っていたのだ。
ならば、その部分は、どこへ向かったのか。
黒獅子の、上半身はどこへ消えたというのか。
「残念だよ、もう貴様から話を聞くほどの余裕がなくってな!」
宙で声が響いたことにより、カマキリが黒獅子を見据えた。
しかし、その時では既に遅かった――なぜなら。
「終わりだよ、じゃあな……!」
小刀は赤の機体の頭部を貫いていた。
同時、相手を散々苦しめた、守りの振動が響く。
両手で支えた地網は、そのまま地面へと向けて、カマキリの身体を引き裂いた。




――しかし。
「な……」
既に動くことを許されず、這いつくばった黒獅子の中で、宮田は目撃する。
カマキリは左右非対称に破壊され、その搭乗口の中身でさえも恥辱に晒されていた。
けれど、その中身は――
「何も……ない?」
いくら地網といえど、そこまで破壊することが出来るだろうか?
少なくとも、搭乗者の血くらいは見えてもおかしくはない。
「一体……私は、何と戦っていたんだ……?」
全滅した供給兵、小日向の死、赤い機体の目的、そしてその正体。

足で全てを探せなくなった宮田に、その謎は、いつわかるというのだろうか。