あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 13

童達の嗤い声と、それを囲む女郎達の嗤い声。
かごめかごめのような光景は、たとえ見ずとも、円を描いた遊戯などだと想像させる。
――けれど、現実はそうではない。ただ、良いように思考が切り替えているのだ。
しかし、その惨劇をありのままに伝えること、それこそがあまりにも酷であった。だから少女は何も言わず、ただ、彼女を抱きしめることしかできなかった。
例えその歌が、鮮血で染まった赤いコック帽の料理だとしても。
童の嗤いと、女郎の嗤い声が、まったくことなる叫びだったとしても。
少女は、代わりに現実を受け止める。
自身が記憶することで、それをそこで堰き止めようとし、悪夢の因果への否定をするためだ。
例えそれが、少女にとっても目を背けたくなるような光景だとしても。
私しか、彼女にはいないのだから。
――少女の握りしめる腕が震えていることを、彼女は知っていた。
けれど、なぜ震えるの?と首を傾げるしかない。
なぜなら、自身は夢の中から出ていないのだから。



【4】
状況は、決して良い方向には進んでいなかった。
けれど、彼等に残された道は進行しかなく。
闇夜を彷徨うとしても、立ち止まることこそが、結果的に悪い方向に進むのだと知り得ていた。
「……マスター、到達しました」
黒獅子の内部からでも、ソレは、春香を充分に圧巻するほどの体躯を持っていた。
毛玉のような物に見えるが、糸は何かの法則性を持つかのように縦横に這い、歪な円を保っている。
天井から垂れ下がっていれば、それは蜘蛛の巣にさえ錯覚を覚えるが、糸は地面から抜き出ており、まさに、映画などで見た、異星物の卵のようであった。
仄暗い穹窿穴の中だ、不思議と不自然には見えぬ代物で。
まるで迷宮の宝物なのかとさえ錯覚した。
『了解、我々もそちらへ向かう』
ザッ、と、通信が途絶える音が木霊し、春香は改めて、ソレを鑑賞した。
「凄い……」
怖いというよりも、その神秘性と浮世離れした存在に、惚れ惚れするとさえ感じた。
春香は自然と笑顔であった。「なんだろう、なんなんだろうこれ」という好奇心が、任務という言葉よりも勝っており。
――であるからこそ、前方からの通信に気付かないでいた。
『……ゃん、春香ちゃん!』
「は、はい!」
慌てて春香は受け答えをする。
その声からするに、先に潜っていた、清水准尉のものだと悟る。
『通信は、一応出来ているみたいだね……状況はあまり良くはないみたいだけど、連絡がとれただけ、安心するよ』
悠長に安堵など出来る状況ではない。けれど、そうでも言わなければ互いに身が持たない。
『……この暗い穹窿穴で、誰とも話せずに孤独死するのは嫌だからね』
「……」
場面は何も変わっていないけれど、刻一刻と時間だけは過ぎる。それが、今の彼等にとって一番の変化であり、冷や汗の速度を上昇させる。
清水の搭乗する黒獅子の電力は、既に底を尽きかけていた。
調査のための先陣だ、供給兵を連れて向かった春香達とは異なり、最初から遠足帰りのバスは用意されていない。
つまり、ここまでが清水の遠足を指す。自宅までが遠足という、幼稚な綾では済まされないのだ。
春香達は清水を迎えに来た先生であった。引くための手を持ち、笑顔で彼を迎えに行く係なのだ。
――しかし、供給兵は全滅した。春香達の活動時間も残り少ない。
マスターは、これを賭けだと言った。
現存する全員で帰るには、レベル4までが限界であると予想される。
レベル4で黒獅子が停止したとしよう。電力が生成するのは動力だけではない、この空気の薄い地下で、酸素さえも補っているのだ。
予備電力に切り替え持つのが数時間。無論、酸素に当てるため、動力としての機能は働かない。
だからマスターは宮田副隊長に賭けた、彼女が共有出来る供給兵を1機でも連れてこられれば、私達の勝ちだ。
けれど――もし、宮田に何か起きれば……。
春香が、今の清水に対し押し黙るのも、仕方のない事なのである。
そういう場所に、彼女は立っているのだから。
『視認した。二人とも、こちらに集まってくれ』
沈黙の濃霧を晴らすのは、信ずる者の声であった。
黒獅子の無愛想な顔しか拝めないけれど、春香と清水は、互いにどこかホッとした。