あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 15

「――Come va?」
女王が、潺のような音で問う。
その解は求めていない。知り得ていても、なぜか、彼女はそう聞いてしまう。
癖、そう片付けるのも悪くない。
けれどそうではない、彼女にとってそれは。
合図。
『4機、全て黒兜。最終目標――――停止』
受け止めた女性は、呟くように、優しく。けれど、それは狂気を含み。そして、その眼は、何も捉えず。
単純に、平凡なほどまっすぐに。紅の昆虫は敵機へと向かって、攻撃を仕掛けた。
拡散、同時、体勢は前屈みの一つの銃弾のように。
女王の前方に立つポーンの群れは、およそ9機。全てが全て同じポーズで身構える、それはもう、立派な散弾銃。
桃白の機体は、静かに右手を挙げ。
「散れ」
分りやすい言葉で、皆に言葉を送る。
先に滑る者など存在しない。その行動は常に一定であり、ブレなど許されない。
なぜなら、彼等は銃弾だからだ。
電車ごっこのように、背中を追い掛けた陣列を取る黒兜の群れ。その前衛を抉るように、総てのカマキリが得物へと迫る。
――が。
「へぇ……良くわかったわね」
寸前で、黒兜その総てが後衛へと下がった。まるで、4機ともが同じ意志を持つかのように。
けれど、そんな浅知恵。二度も引っ掛かる部隊ではない。
カマキリ全機の槍が空を捕らえ、直ぐ様元の位置へと下がる。陳列され、同じ光景が彼女前に広がる。見えない透明の手綱を引いているようだ。
木偶の操作と言う意味ならば、少しばかり正解ではある、が。
『なら、分散させればいいだけじゃない。フリルの手腕を舐めないことね』
そう言い――前方にいるであろう、マルグリットの背を見つめた。
『敵機一つに対し、3機で臨みなさい。残り1機は確保、追々の交渉にでも使おうかしらね。にひひっ』
まるで悪人の笑顔ね、と、言い終えて後悔した。
そんな、振り向いている懺悔の時間などないけれど。
だからこそ、彼女は。
「散れ」
再度同じように、攻撃の手を加えた。
敵がいよいよ戦闘態勢に入るようだ。銃口を、マルグリットに向けているのが伺える。
そんな弾丸、物量の差で恐怖に変えてやる――そう思考に過る、刹那。
『伊織ちゃん!』
聴き慣れた、幼き声が鼓膜へ伝わる。
はぁ、とため息での呆れを見せつつも、通信に対して返答を送る。
「なに! こんな時に脳天気なのよ!」
その言葉に、「うっうー……ご、ごめんなさいー……」と、哀しんだ返事が送られる。そこまでの気は伊織になかったのだが、弁解する余裕もなく。
「……いいから、要件は何?」
『う、うん。到着したよ。伊織ちゃん達の後ろにいる。あとね、フリルさんのが一つどこかに行っちゃって、見失っちゃった……』
フリルなりに何かを感知したのだろう。それについてはやよいに聞いても仕方がない。伊織は、「そう」とだけ返事をした。
つまり、やよいに配置したマルグリットは、今は2体ということ。
「……わかった。とりあえず、やよいは異物の確認を。ビンゴなら、やよいのお手柄よ」
信越しからでも、やよいのはしゃぐ姿が見えた。けれど、伊織はその答えを聞く前に、自ら通信を切る。
「さて……」
場面は既に切り替わり、状況は既に制圧の域であった。
指示通り、3機は既に沈黙。残る1機は、9体のカマキリによって包囲されていた。
この状況、良いわね。ぞくぞくしちゃう。
明らかに相手の絶望的な世界。そこで優位に行える、交渉という名のサディスト。
演説を行うために、伊織は、自らのチャンネルを切り替えた。
仄暗い空洞に、その声はとても高らかに響く。


『初めまして、日本の皆様。ごきげんよう!』