日記のようなモノ.012

どうも、なんとかまだ生きてます。
なんか色々と修羅場なんですが、変わらず趣味丸出しのSSを更新できたらなと思います。

今回は珍しく、最近書いたのについて少しだけ説明のような言い訳のようなのをば。


「祝福の歌」について。
四条貴音さんの誕生日に合わせて更新したものです。たかちはSSとして作成しました。
本来、貴音の誕生日に更新する気はなかったのですが、twitter上にて緩く推されたので、書くことにしました。所用時間は50分くらいでしょうか。
千早と貴音を絡めるということで、歌をキーにすることは瞬時に浮かびました。千早にとっての武器と、貴音にとっての武器。どちらも「見えぬ誰かに届けたい」そんな心情があるのではないかと、歌で共感を得たという設定にしました。
それと、本来、この貴音SSは全三部構成でした。
千早編「祝福の歌」→春香編「至福の歌」→貴音編「幸福の歌」として、千早編を書き上げた後にプロットを作りました……まぁ封印となりましたが。
元々、「たかはるでSSを」というお話だったので、「間接的にはるちはになるようにして、その刺激を二人から貴音が受ける」という夢を思い描きました。
しかしねぇ……なんかこう上手く出来なかったので没に。
ただ、このままだと「祝福の歌」というSSは何だったのか?となりそうなので、どうにか別の形で続編を……と考えてはおります、ええ。期待せずにいてください。

たかはるの方は、私の我儘で出来たような小六さんのSSで補完下さい…!
つーこって、リンクをば。

http://show6.exblog.jp/12037934/#12037934_1

……うちと違って、小六さんは後味が切なくも苦くもない、ほんわかしたSSをお書きになりますよ。羨ましいですね、ハッピーな締めなんていつくらいから書いてないだろう……!w


「悲恋夢のセパレーション」について。
……これはどうもコメントしにくい話に仕上がってますよねー。
その日「失恋」とかそういうのをテーマに何か書きたいと思ってました。この時は、あずささんで書くという事は一切なく、アイマスを絡めるということさえありませんでした。
そこで、初文だけ書いてたらなんとなく「あ、もうアイマスでいいや」という適当な思考から、今回のは出来上がりました。
突発的に書きましたが、私が理想とするあずささんを語るのなら、今回のお話は凄く自分好みのルートです。
春香さんが断られたんだからあずさんだって断られてもいいじゃない!
そんな軽い気持ちで読んでいただけたらなと……。
こちらは完全に救われてない感じで書きました。この後あずささんはどうなるのか……なんて。
しかし告白を了承されたら倦怠期で鬱に、拒否されて活動を続ければスランプに……あずささんて私の中だとホントに恵まれたSSを貰えないですね。



そんなかんじでー。
13日・14日の話をしようと思いましたが、長くなったのでまた別で〜
では次は千早ちゃんのお誕生日でお会いしましょう。

悲恋夢のセパレーション

聖母の奏でる鍵盤の調べが、電子音のシンセサイザーへと変遷する。
幾重の音が散らばり、全ては見事な調和を見せ、天へと至るような音楽となって世に広まっていた。楽団はそれぞれの役目を務め、彼等が際立たせるのは、この私であった。
けれど、私には全て雑音でしかなかった。私という膜を通して、全てが雑音にしか聴こえなくなっていた。
それでも私は声を張り上げていた。いや、今ではその後だといった方が正しい。
どう転ぶかわからないから人間の人生というものは楽しさで満ちあふれている。
個とする自身以外は全てが他人でしかなく。他人だからこそ、彼等の思考を理解することは出来ない。
このメロディーも同じ事だ。
全に、美しい音色に聴こえていたとしても、私という絶対的な中心者に響かなければ、それは断固として雑音でしかないのだ。
「めて……」
ならば私がすることは何だ。
そう、まずは耳を塞ぐことだ。
嫌な物には蓋をする。合理的な思考であり、避けたいのならば行って損のない事であった。
けれど鼓膜は、その音を伝える。音は反響し、私に全てを伝えた。
ならば、次に何をすればいい。
何をすれば止まるというの?
「やめて!!」
その音に勝る、「音」を作ればいい。
だから、私は叫んだ。
ピタリと止む音楽の後に、彼女の手からマイクが零れ、鈍い音が世界に響いた。


アイマスSS:「悲恋夢のセパレーション」


雌雄という言葉がある。
ここでは、一対という意味よりも、勝敗という意味を持っている。
彼女にはもう選択肢がなかった。
目指すべき山は既に登り切り、数本しか立たない頂上で旗を掲げ。
残された夢は、本当に最後。
それをぶつけ、拒絶されてから、アイドルを続ける意味はなかった。
――いや、続けることは選んだのだ。
ただ、時が解決する。そんな問題ではなく。
単純に告げれば、彼女にはもう偶像になりきるだけの、笑顔を作ることさえも難しい状態となっていた。
「大丈夫ですか?」
眼鏡を掛けた少女が、私の視界で、濡れタオルを掲げていた。
前プロデューサーと別離してから数ヶ月。アイドルであることを選んだ私に、社長は、プロデューサーではなく、サポートとして、私にマネージャーを就けた。
「ええ……大丈夫よ」
私は、それを奪い去るように受け取り、自らの額にそれを当てる。
心配そうに、こちらをのぞき込んでくるのが伺えた。けれど私はそれを無視し、項垂れるように俯く。
正直、アイドルとしてやっていくことは、もう無理だと感じていた。
演奏が始まっても歌うことは出来ず、踊ろうとすれば足は竦み、アピールをしようにも、苦く痛々しい顔しか出来ない。
底辺アイドルよりも最低、とさえ、烙印を押されても良い状況であった。
それでも社長は何も言わない。
それは――トップアイドルとしての私を、殺したくないからなのか。それとも、既に見限られているのか。
この、新人のようなマネージャーとパートナーという時点で、後者の方が可能性は高いかもしれない。
「あの……?」
自らが作った暗闇で、筆を走らせすぎたようだ。悲観じみた思考など、私らしくもない。
いや……今の私らしい、の方が正解とも言える。
「……何かしら?」
私は、顔を上げて、彼女に振り向く。
その顔は、もうアイドルとは言えないのだと、自身で感じた。
「い、いえ……その、本当に大丈夫なのかな、って」
どんな顔で、私は彼女を視ているのだろう。
嘘で笑顔を作る事なんてなかったのに、なぜ今は嘘でも笑顔でいれないのかしら。
「大丈夫と言ったら、本当に大丈夫、だから。15分、それだけ、一人で居させてもらえないかしら?」
渡されたタオルを、マネージャーである彼女に持たせ、そう告げる。
彼女は困惑しつつも、すぐさま部屋を後にした。
その扉が閉まった途端、瞬時に部屋は静寂と化す。
「どうして、なのかしらね」
ラストコンサート。あそこで、彼にプロポーズをしてから、私の活動……というよりも、人生は大きく変わってしまった。
彼は私と行かなかった。断られた後は顔が腫れるまで泣き続け、枕は水没させたかのように湿っていた。
3日が経ち、私はアイドルを続けることを選んだ。
既に彼は別のアイドルをプロデュースするため、忙しなく働いていた。何もなかったかのように、私という風景だけを切り取り、自らの人生へと進み始めたのだ。
その光景を見て、「ああ、もう何もないんだな」と、空っぽの心に手を当てた。
除夜の鐘は既に数を終えていた。役目を終えれば後は夜明けを待つだけ。
ならば。と、私は夜明けを目指すことを選んだ。
その日差しが照らすまで。
歓声と照明で彩られた、夜明けの世界へと向かうことを。
――そんな綺麗な物語が、現実に待っていることなんてない。
繋がれた手錠は、そう簡単に断ち切ることはできなかった。
鎖だけが延々と伸び、彼が進むことで、私はその歩幅に追いつけず転げていた。
意識しているつもりはないが、呪縛は、全てあの日から始まっているのだと知った。
アイドルは、運命の相手を見つけるための行動であった。その目標は今からだって再開できる、けれど、見つかっている以上、それ以外を目標として立ち続けることが私には出来なかった。


いくら上手く歌えても、彼は私を見てくれない。


いくら上手く踊れても、彼は私を見てくれない。


そう、そう思うからこそ。
私は、アイドルでいられない――
「あ、あずささん。そろそろお願いできますか?」
静寂の海で、うねりとなって声が聴こえた。
本当に大丈夫ならば、私は昔のように脳天気に反応出来た。
そう出来ないのは、今の私が昔の私ではないから。
けれど――私は、この場所にしか居場所がなく。
「ええ……今すぐ行きます」
言葉さえ、限られていることに気付いた。



頭を下げて、私は同じ場所へ戻る。
皆が笑顔で、心配ない、そちらこそ大丈夫か、と、決まり切った愛想で私に接する。
トップアイドルという地位が、ギリギリ私を繋いでいるのだと悟る。
少しだけ、胸が痛い。
「はい、じゃあもう一度いきます」
演奏者が自らの楽器と向き合うように、私も、一本のマイクへと向き合う。
私は、まだこの場にいていいのだろうか。
わからない。
自身の解答は出ているけれど、それを採点してくれる人が、私の周りには一人も居なかった。
けれど、私は、まだこの場所に立っている。
皆が私を見つめ、私に期待をしているのだと、私は感じた。
私は、なぜまだ歌うのかしら。
わからない。
それでも、私はまだこの場所に立っている。
――鍵盤の調べに乗せて、涙を流しながら、三浦あずさは一曲を歌い上げた。
彼はなぜ、私とのプロポーズを断ったのだろう。
もし、了承されていたら?
そんな考えさえも、今だけは離別させて。

あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 11

停止と消滅は、同時に死へと繋がる。
停止とは生命活動のことを指す、それが寿命であろうと、災害であろうと、予期せぬ事態であろうと。容易く死ぬことはできる。
消滅なんてものはもっと簡単だ、全てが焼き尽くされてなくなったとする、そうすれば、人は「生きている」とは言わない。在る者と認識されないこと、つまり死へとなる。
例えば、記憶の中で人は生き続ける、という台詞がある。
その言葉は間違ってはいない。
他人の定義を、「自身が他者を認識することで、初めて人として成り立つ」とするのならば、目が映す物体を「人」として認識すれば、充分に人だといえる。
生きていると思えば、事象として死んだ人間がいたとしても、その人の頭の中では「生きている」と定義されるわけだ。
なら――現状として、彼女の脳は、生か死か、どちらを捉えているのだろうか。
その瞳に映る者が、たとえ人間じゃないとしても。
その首が、金属で出来た機械だとしても。
首が目の前で撥ねられたのならば、アナタならどう感じるのだろう。
解答は容易い。
「小日向……くそっ!」
死だ。その結論が、たとえ彼女の中だけだとしても。
――その叫びが、黒獅子の中を貫通し、微弱ではあるが、この暗い迷宮の中で響いた。
デュラハンとなった黒獅子が膝から崩れ落ち、ズドン、と、音を立てて地面を抉る。
真横にいた一体は、その叫びだけを最期に、すぐさま後ろを振り向く。
「――――」
視界が、暗闇を捉える。
その刹那。
「……っ」
ダーツの矢のようなモノが、ブルである宮田をめがけ、暗闇から放たれる。
瞬時に宮田は反応を示す。が、投げられた三本の矢を一つ避けきれず、黒獅子の肩を掠めた。
その事に、舌打ちする間もなく――
「――っだってんだコイツは!」
先程と同じような動作で、赤色を纏う矢が飛び出す。
脇を締めた両手で持つ矢は、どちらかと言えば槍のように錯覚する。
赤い機体の突撃を、宮田は容易く躱す事に……成功。視界を、相手に向けようと振り向いた先には――
同じスタイルで、方向を翻した赤の機体があった。
「コイツ……!」
赤い装甲のマタドールが、獅子を狙いにきた光景であった。
しかし、自然の力が勝るからか、弄ぶのは獣の方で。
執念だけで何度も突撃してくるマタドールに、獣は、体力を奪われると感じた。
「しつこい!」
長丁場を避けるためか、宮田は、自身の機体の肘の部分に力を入れる。
簡単に、部品の一部が外れ、中には長細い、黒獅子からすれば定規のようなものが露わになる。
それを躊躇せず引き抜き、突撃を繰り返すマタドールを避けながら、振り上げる。
「唸れ、地網!」
それは、とても小さな刀であった。
包丁にも届かぬその剣は、マタドールの矢で例えるなら、投げナイフに用いられるような代物で。
けれど、その振動は、マタドールの装甲を容易く削った。
4回目の回避を終え、初めてマタドールがその脚を止めた。
まじまじと見つめると、それは闘牛士よりもやせ細った、カマキリのようであった。
カマキリは、先程まで両手で抱えたレイピアを、片手に持ち直し、こちらを見つめた。
全身を捉え、削った先が手の甲の部分であったのだと、宮田は悟る。
息を整え、宮田は一つのスイッチを押した。
「お前……どこから来た?」
その声は、先程の叫びとは違い、キチンと穹窿穴で轟き、ささやかに木霊する。
押したスイッチは、オープンチャンネルであった。カマキリが防音製でもなければ、聞こえているはずなのだが……。
期待通り、相手は何も答えない。
その反応に対し、宮田が言えることは、一つだけであった。
吐いた息は深く、同時に、捨てる台詞も吐くように。
「なら――お前さんを倒して、嫌でも吐かせてやるよ」
地網の振動を再開させ、獅子がカマキリへと襲いかかった。

四条貴音バースデーSS「千早編:祝福の歌」

「歌……とても、上手なのですね」
照らす月は既に雲に隠れ、灼熱の輝きは、地面へと還っていった。
全ての照明が消え、暗幕が貼られ、歓声も、私を見つめる瞳も。全てが閉じたこの空間。
息を整え、落ち着いた様で胸を撫で下ろす彼女に対し、突然、隣の少女は、そう語りかけた。
「……嫌み、ですか?」
私は呆れたような目で、彼女を見つめた。溜息さえも自然に漏れ、そうすることで、自身を演出する。
けれど、問いかけの君は、微笑みで私に見つめ返し。
「ふふっ、そうではありません。私は素直に、貴女の歌が、美しい、と感じたのです」
その笑顔を見て、私は自信の愚かさに呆れた。呆れを通りこして、さらに呆れたのだ。
恥ずかしい……そういう感情が、自然と零れた。
「あの……」
私が返事をしようと思った、その刹那。
『では、オーディションの結果を発表します』
再び月は姿を現し、スポットライトが全ての少女へ降り注ぐ。その月の光に照らされる少女達はさながら、天から授けられた竹取の姫君のようで。


『一枠のオーディションを勝ち取ったのは、四条貴音。おめでとう』



――四条貴音バースデーSS「千早編:祝福の歌」



踏み付ける地面に、自身の足跡が、くっきりと残る。
それを次々と残す様は、まるでチョコレートケーキにフォークを何度も突き立てるようであった。けれど、地面は崩れ落ちることはない。崩れるとしたら、それは彼女の足の方が早いことだろう。
痛いほど降り注ぐ鈍色の流星が、彼女にとっては苦痛でしかなかった。
紫外線さえも遮るローブがこの場にあれば、砂漠に取り残された、薄汚れた物であっても、喜んでソレを身に纏ったことであろう。
出来るならば、傘の方が好ましいのであるが。この際、雨を遮る物であれば、手段など、容易く切捨てられる。
何もないからこそ、彼女には走るという手段しかなかった。時にはコンビニや、書店のような場所で立ち止まり。雨宿りかつ息を整えるとい作業を繰り返す。けれど、気持ちだけは数km先に言っているような感覚で。
その感覚は、痛覚となって、彼女に付き纏っていた。
「……っ!」
右足の訴えを、言葉として吐き出す。けれど、発言に対し黙秘を続け、頑なに意見を聞こうとはしなかった。
紺髪は、雨で湿って竜胆のように華やかで、湿り纏わり付く衣服は、下地のシャツの色を映えさせていた。
けれど、彼女は走り続けた。
全てを恥じず、全てを受け入れ。
ただ、彼女は雨の中を駆け抜けていた。



「誕生日……? 四条さん、来週が誕生日なんですか?」
特にパッとしないパイプ椅子。雑音と人の騒音で溢れかえる中、多少ではあるけれど、それを遮断する一室の空間。
その開けた場所には、白いボードと二つの椅子だけが用意されていた。
席は満席で、居座る白銀の髪の少女へと向けて、少女は発言を拾う。
「ええ、そのよう、ですね」
俯くように、四条と呼ばれた少女は頷く。対し、つっこむべきではなかったかしら、と、一人不安な顔で見つめ返す少女。
「あ、ですが」
が、パッと明るくなって、白銀の少女は答える。
「『21日は盛大にライブでもしようじゃないかー!』と、社長が仰っていました。ですから、私は誕生日といえど、アイドルでいるようです」
その顔は、なぜか、本当に嬉しそうであった。自分の聖誕祭ライブ、たしかに私も、そんな企画があったとしたら、嬉しい。飛び跳ねるであろう。
ファンの方に祝ってもらえる。アイドルとして、申し分ない一日だ。
けれど、
「良いの、四条さんはそれで」
月並みだけれど、問いたださずにはいられなかったのだ。
「ええ……ぜひ、貴女も来てくれると嬉しいのですが。如月千早
そう彼女の口から言われ、千早は、心の底から安心をした。
「……事務所が許してくれるか分からないけれど、ぜひ、四条さんの歌を聴きに」
正直な気持ちだった。
彼女とは、あるオーディションで出会って以来、こうしてたまに、黒井社長の目を盗んでは、会話をするようになった。
きっかけとなったオーディションには負けてしまったけれど。どうしても、四条貴音という人物が気になってしまい、千早は声をかけることを選んだ。
ライバルではあるけれど、961プロの事務所の方針に、心配でもあったのだ。
けれど、そんな千早の考えを知らず、貴音は笑顔で。
「ええ、ぜひ。いつか、貴女と一緒に歌ってみたいですね……如月千早
その願いが、いつか叶えば良いな。と、千早も感じた。



――そして、IU決勝の結果が発表されたのが、本日正午の事であった。
それは、765プロからしてみれば、この上ない吉報であった。けれど、一人テレビの内容に驚愕する千早からすれば、外で降り止まぬ雨のような心境であったのだ。

四条貴音、電撃引退』

同時に、その情報が公にされたのだ。
黒井社長のことだ、IUに落ちたことで、即、四条貴音というアイドルを切捨てたのであろう。
そのニュースを聞いた瞬間のこと――千早には、一つ、こみ上げる何かがあった。
それは怒りなんてモノじゃない、貴音の気持ちを踏まえての、悲しみであった。
彼女が引退したことへの悲しみでもない。私より優れた彼女が負けてしまったことでもない。
ただ、彼女は泣いているんじゃないか。という想像に悲しくなったのだ。
――だから彼女は駆けた。
突如として事務所を飛び出す千早に、プロデューサーは途中まで追いかけてきた。けれど千早は振り払ってでもその枷を投げ、ただ、一人の少女に会いたくて、雨の中走ることを選択したのだ。
目的地は何もなかった。
けれど、一つ。行っておきたい場所があった。
それは、区内にある少し大きなアリーナ会場で。
「……はぁ、はぁ」
千早は息を整えつつ、その場から会場の方を見つめた。
その場所には誰もいなかった。この大雨の中、誰も舞台に上がることのない会場へ、好んで居る必要はなく。もし、傘も差さず居るとするならば、それはよっぽどの物付きか。
――もしくは、一人のアイドルであろう、と。
「四条さん……」
今日は1月20日。今夜と明日の夜に待ち受けた彼女のコンサートは、自身が引退するという形で、2つとも、中止になったのであろう。
貴音はただ会場を見つめ、ぐしゃぐしゃに濡れた身体で、ずっと、ただ会場を見つめ続けていた。
雨はまるで彼女の涙のようであると、千早は感じた。大粒の涙が、溢れ出るように降り注いでいるのだと。天は、貴音を祝福したんじゃない、感情として、表現をしたに過ぎないのだと。
同じように濡れた身体で、千早は、貴音へと迫った。
近づいても、貴音は何も言わなかった。だから、千早はもう語ることを止めて。
ただ、後ろから、彼女のことを抱きしめた。



1月21日
既に時刻は、その日を指していた。
雨雲は既に去り、嘘のように美しい天気であった。星はハッキリとその姿を表し、月は遠目からでも確認できた。
寒空の下で、自身のカーディガンを抑えながら、貴音はゆっくりと、口を開いた。
「寒いのですが……」
先程まで濡れていたのだ、無理もない。むしろ、彼女はいま、風呂上がりなのだ。
けれど、千早は彼女を外に連れ出し、
「いいから、外の景色を見に行きましょう。たしか、天体観測が趣味、だったわよね?」
無邪気な顔で、そう告げた。
「私は……ただ月を見上げるのが好きなだけで」
貴音はそう呟きながらも、乾きかけの靴を履き、千早の手に引かれて、小さな広場へと来ていた。
至って人は他に居らず、まるで、二人でリハーサルの舞台に立ったような感覚で。
そんな感情を抱き、千早ははにかんだ。
その照れを隠すように、手を繋いだまま、千早は告げた。
「お誕生日、おめでとう」
言い終えた後で、自分の顔を見られたくないと、千早は天上を見上げた。
貴音は一瞬、千早の方を見つめた。けれど、見つめ返すことはなく、貴音もただ、鎮座する月を、見上げることにした。
「これから……どうするの、四条さん」
間を作るのに我慢出来ず、千早が呟く。
これから、という言葉に、貴音は少しだけ苦い顔をする。
「どう、しましょうか……」
月は当たり前のようにそこにあって、変わるのは、それを見上げる人間の方であった。
それに憂う貴音の姿は、月とは比例せず、雲隠れしているようで。
だからこそ、千早は――
「――四条さん、私の歌、上手だ、って言ってくれたわよね?」
頬を掻きながら、今度こそ、千早が貴音を見つめる。
その動作に、貴音は見つめ返すことを選択し、こくっ、と頷く。
「じゃあ、今夜だけは、貴女のために歌うわ。四条さんの誕生日を祝福して、ね」
言い終えると同時に、千早は、透き通るような声で、月にめがけて歌い始めた。
その音色は、貴音の雲を晴らすには充分で、その顔は、聞き惚れたように微笑み。
その歌を、ずっと近くで聴いていたいと、貴音は思った。



END

一時間SS:お題「夜」 

右手を天上に掲げると、広げきった隙間から、光が差し込む。
左手は自らの頭を支え、他の四肢は、だらけきって地面へ屈する。
フローリングは季節の変わり目を投影し、氷面上のような冷却を持つ。
そんな場所であってもなお、彼女は寝転がることを選択した。どうせ自身の身体は汗だくで、どちらかと言えば心地の良いものであったからだ。
同じように転がるペットボトルを、掲げていた右手で拾う。特に封を開けることもなく、それを頭上へと投げつける。見ずともそれは綺麗に着地したようだ。鞄によって、鈍い音が展開されていた。
と、身体を前へ起こす。はぁ、と一つ、息が漏れ。同時に、汗が自らの腿へと落ちた。
その刹那――


ピリリ、ピリリ。


聞き慣れた電子音。手紙を運んでくる、配達員の調べ。
メールという名の、現代の機能だ。
文面はなんてことのない、ありふれた言葉。
『もうレッスン室からは出たか? もう良い時間だろう、まだ居るなら帰るんだぞ』
いつも見るような台詞。本当、そのまま彼の言葉が再生されそうで。
そして、それを見た途端に思ったのだ。

「寂しい……」



1時間SS:「一人の夜」



彼女は、アイドルとして結果が出せずにいた。
伸び悩むからこそ、出来ることはレッスンの連続しかない。一日のほとんどをレッスンに費やし、ただ、自身を磨くことだけに重点を起き。
故に、プロデューサーと共に行動する時間が減っていた。
レッスンを覗き、時には指導をくれたり、そうやって居てくることはある。けれど、彼の仕事はそれだけではない、私のスケジュールを管理し、営業の依頼を掴んでくることも重要な仕事であるのだ。
それに、彼はもう、私一人のプロデューサーではない。他社から移籍してきたアイドルを任され、負担も二倍なのだろう。最近ではろくに自宅にも帰れていないらしい。
ならば、私が出来ることと言えば――
一人で、頑張ること。
少しでも彼の仕事を減らそうと、私は一人でいることを望んだ。
それは彼のためといいつつ。
足手まといになるなら、言われる前に離れようと思ったのだ。
もう一人の子は、私とは比べものにならないくらい輝いていた。アイドルランクもファン数も桁違いで、移籍する前からテレビにもたくさん出ていて……なにより、私なんかより、プロデューサーの近くにいて。
「そうじゃない……そうじゃないよ」
首を横に振って、考えを打ち消す。
彼女は立ち上がり、自らが羽織るジャージのファスナーを、少しだけ下げた。
そのまま、とたとたとある方角へ向けて歩き出す。
汗が彼女の足跡のように滴り、その道標の先には、大きな窓があった。
特にカーテンがあるわけでもなく。その場所へ着くや否や、躊躇なくその窓を開いた。
風の通り道が出来、嬉しそうにその方向へと飛び進む。
その中心に彼女が立っていた。彼女が指針であり、風速が、彼女を進めるための時速へと変化していた。
心地の良い風に、笑顔で彼女は呟く。
「涼しい〜」
窓越しに手を置き、天上を見上げれば、そこは無数の星々が彩る水中であった。
暗闇で輝く魚達のストーリー。紡がれる線で起こる星座の物語は良く分からないけれど、視界に映るこの一瞬が、綺麗な星空であることだけは認識出来る。
聞けば、地面も街灯で彩られた立派な夜空であった。
都心の中心に立つこのビルだ。未だ人の声は止まず、車は当たり前のように走る。
静寂とはほど遠い場所だな、と、窓一つでここまで違うことに驚く。
けれど、彼女が感じる寂しさは、そんなことではなくて。
「……」
――私は、逃げているのだとどこかで感じた。
頑張っているという建前は、ただがむしゃらなだけで、彼の負担を避けたいというのは、いつかそう言われるんじゃないかという恐怖で。
けれど、もうどうすることもできない。だって、自分でそうしたんだから。
このまま、アイドルも辞めちゃうのかな。


ピリリ、ピリリ。


また携帯が鳴る。同じ場所へ戻るよう、彼女はとぼとぼと歩いて行く。窓を閉めずに行ったため、冬空の寒さが、少し痛いとさえ感じた。
放置されていた携帯は、床の上で苦しそうに振動し、それが反映されたかのように、音楽をはき出していた。
立ち上がったまま、彼女は携帯を掬い上げ、その苦しみから解放する。
『……早く帰れっていつも言っているだろう。まだ残っているのか……いい加減寒いから出てきてくれ』
その文面に、彼女は目を見開いた。
慌てて、携帯を閉じ、先程まで身を預けていた窓へと走る。
目線を下に落とし、玄関口あたりに――その人物はいた。
彼は手袋をした両手を擦りながら、ちらちらと横を見ては、誰かを待っているようであった。
と、こちらに気付いたのか。
「―――――――」
片手を振り回し、俺だ、と言いたげにこちらに手を振る。
そんな姿を見て、彼女は少しだけ微笑んだ。
「もう……待ってて下さい!すぐ行きますから!」
彼の声が聞こえないのだから、その彼女の声も、多分彼には聞こえていないと思う。
けれど、それでも良かったのだ。


今日の夜だけは、彼女の寂しさも、かき消されるかもしれない。





END


あえてどのアイドルだとかかきませんでした。
皆さんのご想像で補完をどうぞ……!

日記のようなモノ.011

あけましておめでとうございます(遅い
どうも、私です。

今年も適当に過ごしてると思います。よろしくお願いします。



あと、冬コミに参加してきました。
なんとも恐縮ですが、様々なアイマスサークルの方とふれあえさせていただきました。

けれど、せっかく誘って貰って、映画を観に行ったのに寝ちゃったりとか(睡眠時間2時間でコミケ直だったので……
打ち上げに行ったのに手ぶらとか(時間ぎりぎりまで寝てて焦った

……まぁとにかく、二日目誘ってくれたみおみおさん、打ち上げに誘ってくれたなるさん、打ち上げでお世話になった遅刻組チームの詩時さん、タカシダさん。一緒にお話した方々。ありがとうございました……!
こういう機会がなければ憧れの金魚さん・青山さんのサークルとお話なんて出来ませんでした……!大晦日にして最高の思い出です!


そして、会場でお世話になった方々。
なんかただ行っただけなのに本をくれた方々。とくにのあさんは、お使いの褒美のようにマグカップ付きでいただいて……日々の紅茶が美味しくなりました。
なぜかだらだらと行動することになった、貴音クラスタの皆様。

ホント、ホントに。ありがとうございました……!
またどこかで会ったらよろしくお願いします!

あえてタイトルを付けるならば、im@s架空戦記のジャンルSF 10

【3】


「悪くない……好きよ、こう、身体が軽くなっていく感覚」
恋人のように、並列に連れ添うのに、彼女の声は、どこか遠く感じた。
黒の上に、うっすらと窪みが見え。触れることなくそれを通過する。その内部はやはり黒く、抜け出たと思った頃には、また窪みが見えた。
トンネルを抜けると、そこはトンネルであった。導かれる路はいつも夜の世界で、常人なら気が狂いそうになり、彷徨いを彷彿とし、崩れ落ちることであろう。
けれど、彼女に迷いはなかった。
まず、第一に違うのは
『――レベルダウン、4thエリア到達を確認』
それは風の濃度である。
穹窿穴内部の浸透地域、それを区別するためのエリア分けであり。
その標は、彼女が視るメーターが記していた。
「この速度なら、余裕で地上まで戻れるわね」
言葉と同時に、目線を動かす。ファインダー内部の自身の目が、目下の小さな光を捉える。
橙色に輝くそれは、まるでオレンジグミのようで。
それは、兵器の一つとして、「橙蝋」と呼ばれたマーカーであった。
第二の、ただのトンネルにはない差違だ。
『……宮田副隊長』
確認を続ける機体に対し、隣の機体がその物体を名称で呼ぶ。
けれど、黒獅子にそんな長い名称はない。それを指すのは、内部に潜む目のある方で、
「なんだ」
現在の主だ。だからこそ、彼女は返答をする。
『……原因は、一体何なのでしょうか』
彼等は今、二人で行動をしている。それはマスターの命令であり、率先して挙手した役目でも何でもない。
それはたまたま――状況に気付いたのが、語る当方であったからだ。
宮田はその補佐として指示され、こうして、相乗りのドライブを続けているのである。
「柄にもない、ビビってるのか小日向中尉。異性を手玉に取る歴戦の兵士も、母胎の暗がりでは坊やってわけか」
ははは、と高らかな笑いで言葉を続ける。
冗談を言っていい状況なのか、それとも、そんな軽はずみでは済まされない状況なのか。
――宮田にも、それがわからなかった。
マスターには「何かがいる」ということを知らされただけだ。示す「何か」と呼ばれるモノが、異形の怪物だったとして、供給兵達はそれに襲われたという可能性もある。
供給兵に就いた護衛の黒獅子の数は4機。それが通信さえ飛ばさず全滅ということは――
「……潜むは鬼か、はたまた栗鼠か」
足場の芋虫が加速し、次々と橙蝋を踏み潰す。虱潰しのような作業を繰り返す。
一歩、また一歩。
その歩みは希望の光へと向かっているようで、同時に絶望への合図のようにも取れた。橙蝋を辿りながらレベル3へ踏み込むということは、その現場へと導くようなものなのだから。
待ち受ける試練の扉へと向けて、火車は果てを目指す。
既に、宮田と小日向は沈黙を続けていた。事務的な確認作業の言葉だけは絞り出せるものの、不安が浸透地域を覆っているようで、外に出ずとも押し潰されそうな感覚。
けれどその沈黙も――ゴール目前となった。
振り子がじわじわと「3」という数字に近づき、針がその場所へと触れようとしていた。
――その刹那。
『副隊長!』
「わかっている!」
音だ。
音が、物質となって迫ってきた。
その音はまるで雷雲を予兆させるかのように。
駆動は籠るように響き、それを増幅させ近づく。
けれど、彼等が恐れるのは、そうではなかった。
「……なぜ、なぜ後ろから聞こえてくる!」
それは先程まで、彼等が走ってきた道のりであった。
レベル4。
彼等の知りたい現場からではない。むしろ、生物に気付いて、それを追ってきたかのような。
そして、彼等がソレに気付くより前に
『みや――』
小日向の乗る黒獅子の首が、宮田へと迫るように飛び跳ねて来たのである。